健康保険料や厚生年金保険料などの社会保険料は、種類によって計算方法が異なります。負担者や負担割合もそれぞれ異なるため、混同しないように気を付けなければなりません。本記事では、社会保険料の計算方法と計算時の注意点についてわかりやすく解説します。
社会保険料とは?
企業における広義の社会保険料とは、「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」の保険料の総称です。これらの社会保険は、国や自治体によって運営される公的な保険制度です。企業で働く人は、社会保険の加入条件に該当する場合、保険への加入が強制となります。
相互扶助の理念に基づき、加入者が互いに費用を出し合うことで、ケガや病気、高齢化、失業といったリスクに備えることができます。下記が、社会保険料の種類とその内容です。
社会保険の計算に必要な標準報酬月額とは
標準報酬月額とは、従業員の給与などの平均額を等級に分類したものです。また、健康保険料と介護保険料は1〜50の等級で分類され、厚生年金保険料は1〜32等級で分類されます。
毎年4月〜6月の賃金をベースに決定し、毎年9月に改定が行われ、原則1年間同じ標準報酬月額で保険料を計算します。標準報酬月額によって、社会保険料の計算を簡単にすることができるのです。
社会保険料の計算方法
健康保険料の計算方法
健康保険料は、「標準報酬月額×健康保険料率」によって算出します。
健康保険料率は、加入している健康保険組合の種類などによって決まります。また、協会けんぽに加入の場合は、適用事業所の所在地によって保険料率が違う点に注意しなければなりません。例えば、東京の適用事業所が所属する協会けんぽ(東京支部)の保険料率は9.98%(2024年3月分から)となっています。これを事業主と従業員が折半で負担するため、それぞれの負担は4.99%となります。
例として、協会けんぽ(東京支部)に加入のうえ、標準報酬月額が30万円である従業員の健康保険料は下記のとおりです。
標準報酬月額30万円の従業員の健康保険料
30万円×9.98%÷2=1万4970円
よって、給与から健康保険料として月々1万4,970円を差し引きます。事業主は、事業主負担分の1万4,970円と併せて、保険料の納付時に支払います。
厚生年金保険料の計算方法
厚生年金保険料の計算方法は、「標準報酬月額×厚生年金保険料率」です。厚生年金保険料率は現在18.3%となります。これを事業主と従業員が折半で負担となります。
標準報酬月額が30万円の従業員の厚生年金保険料は、下記のとおりです。
標準報酬月額30万円の従業員の厚生年金保険料
30万円×18.3%÷2=2万7,450円
事業主は、従業員分2万7,450円を月々の給与から差し引き、事業主負担分2万7,450円と併せて保険料の納付時に支払います。
介護保険料の計算方法
介護保険料の計算方法は、「標準報酬月額×介護保険料率」で算出できます。
介護保険は、第2号被保険者である40歳から64歳までの従業員が加入する保険で、健康保険料と併せて介護保険料を納める形になります。なお、65歳以上の人はすべて介護保険第1号被保険者となり、介護保険料は65歳になった月から発生します。
介護保険料率は、加入している健康保険組合の種類や事業所の所在地によって異なりますが、例えば協会けんぽに加入している事業主であれば、1.60%(2024年3月分から)です。これを事業主と従業員が折半で負担となります。
標準報酬月額が30万円で、40歳の従業員の場合、介護保険料は下記のとおりです。
標準報酬月額30万円、40歳の従業員の介護保険料
30万円×1.60%÷2=2,400円
事業主は、従業員分2,400円を月々の給与から差し引き、事業主負担分2,400円と併せて保険料の納付時に支払います。
雇用保険料の計算方法
雇用保険料は、「毎月の給与支給額×雇用保険料率」で算出します。
健康保険、厚生年金保険、介護保険が標準報酬月額に基づいて計算されるのに対し、雇用保険料は毎月の給与支給額に応じて算出します。なお、給与支給額には、残業手当や通勤手当などの各種手当も含みます。
雇用保険料率は「一般の事業」「農林水産・清酒製造の事業」「建設の事業」のいずれに該当するかによって異なります。詳細は、厚生労働省「雇用保険料率について」を確認してください。一般の事業であれば、従業員負担が6/1,000、事業主負担が9.5/1,000になります(2024年4月~2025年3月までの場合)。
※厚生労働省「雇用保険料率について」
月の雇用保険料について、対象となる給与支給額が30万円だった場合、従業員の給与から差し引く雇用保険料と事業主の負担分は、それぞれ下記のとおりです。
月の給与支給額が30万円の雇用保険料
・従業員分:30万円×6÷1,000=1,800円
・事業主負担分:30万円×9.5÷1,000=2,850円
事業主は両方を併せて納付しますが、雇用保険料と労災保険料の場合は毎月納付するのではなく、原則として1年分をまとめて納付します。
労災保険料の計算方法
労災保険料は、「全従業員の1年分の賃金総額×労災保険料率」で算出した金額を、事業主が負担します。労災保険料は従業員負担がないため、月々の給与から差し引く必要がありません。
2024年10月から社会保険料の加入条件が拡大
2024年9月末までの社会保険の加入対象は、厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業で週20時間以上勤務する短時間労働者です。
しかし、2024年10月から加入要件が拡大され、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業に勤務し要件を満たす短時間労働者は、社会保険加入が義務付けられます。
また、社会保険料の加入が義務付けられる企業のことを「特定適用事業所」といいます。
短時間労働者の社会保険加入対象条件
・週の所定労働時間が20時間以上
・所定内賃金が月額8.8万円以上
・2ヶ月を超える雇用の見込みがある
・学生ではない
社会保険料を算出する際の注意点
社会保険料率は変動することがある
社会保険料率は、定期的に見直しが行われていて、変動することがあります。厚生年金保険料は現状固定ですが、それ以外の健康保険料率、介護保険料率、雇用保険料率、労災保険料率は変動がありますから、各健康保険組合などの保険者や年金事務所の最新の情報を見落とさないようにしましょう。
産休・育休中は条件を満たせば社会保険料が免除になる
産休・育休中は、日本年金機構に申請をすることで健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料が、従業員・事業主共に免除され、その間の資格が失われることもありません。対象となる期間は、産休・育休の開始月から終了日の翌日が属する月の前月までです。また、育児休業において免除の対象となるのは、休業の開始月に14日以上の育児休業を取得した場合などの条件があり、条件を満たさない場合は免除の対象となりません。
また、雇用保険料と労災保険料に関しては支給した給与額に応じて計算されるため、産休・育休中で給与支給がなければ保険料は発生しません。
雇用保険料以外は日割計算がない
雇用保険料以外は、日割計算がありません。健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料は、末日に資格喪失していれば、該当月の社会保険料は発生しません。労災保険料は、労災保険料率を乗じた保険料が発生します。その一方で、雇用保険料は実際の支給額に保険料率を掛けて算出するため、支給額が日割りになるのであれば、その分保険料も安くなります。
なお、雇用保険料以外の社会保険料は、退職日の翌日が属する月の前月分まで発生するため注意が必要です。例えば、3月31日に退職した従業員の場合、退職日の翌日は4月1日ですから、前月の3月分まで社会保険料が発生します。
社会保険料は原則として、当月分の給与から前月分の保険料を徴収する翌月徴収を行います。退職で翌月の給与から社会保険料を引ききれない場合は、退職月の給与から2か月分の控除を行う必要があります。
賞与も社会保険の対象になる
社会保険料は毎月の給与だけでなく、賞与(ボーナス)も対象です。賞与から天引きされる保険料は、標準賞与額に健康保険料率・厚生年金保険料率、40歳以上は介護保険料率を掛けて決まります。
社会保険の対象となる賞与には、年3回以下で支給されるものが該当します。金銭での報酬だけではなく、自社製品など現物で支給されるものも含まれるので注意しましょう。
まとめ
本記事では、社会保険料の計算方法と計算時の注意点についてわかりやすく解説しました。法改正などさまざまな要因で保険料率や加入対象も変動するため、正しい保険料を計算できるように、被保険者や法改正の情報を収集することが大切です。
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